自治体のデジタル化(自治体DX)と、行政向けのサービスをつくる会社(GovTech)は、ITの経験を公共の仕事に活かしたい人にとって気になる分野ですよね。この記事では、デジタル庁と総務省の公表資料をもとに、いま自治体で何が起きていて、どんな人が求められているのかを整理します。数字はすべて出典つきで、2026年10月22日に確認しました。年収や報酬の幅は、根拠を示せる統計がないため載せていません。
公表資料で見る自治体DXの今
自治体システムの標準化と、移行の遅れ
国は標準化法にもとづいて、住民基本台帳や地方税など20の事務を「標準化の対象」と決めています。自治体は原則2025年度までに、国の仕様に合った「標準準拠システム」へ移ることを目指してきました。
ただ、すべてが期限に間に合ったわけではありません。デジタル庁によると、2026年3月末の時点で、移行の対象になる全34,366システムのうち10,013システム(29.1%)が、移行が2026年度以降になる「特定移行支援システム」になっています。主な原因として、移行作業やその直後の運用に想定以上のSE(システムエンジニア)の人手が必要とわかり、事業者が移行の予定を大きく見直したことが挙げられています。メインフレームや個別に開発したシステムを使っていること、今の事業者が撤退して代わりのシステムを調達できる見込みが立たないことも原因です。
ここ、ITの仕事を探している人にとって見ておきたいところです。移行が遅れた主な原因として、国の資料が「SEの人手」を挙げているからです。
出典: デジタル庁「地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化」(最終更新 2026年9月30日)。
ガバメントクラウド
国と自治体が共通で使うクラウドの環境です。デジタル庁が選んだ対象のクラウドサービス(2026年度募集分)は、Amazon Web Services・Google Cloud・Microsoft Azure・Oracle Cloud Infrastructure・さくらのクラウドの5つです。さくらのクラウドは、2026年3月27日にすべての技術要件を満たしたことが確認され、本番環境の提供ができるようになりました(デジタル庁「ガバメントクラウド」)。
マイナンバーカード
総務省によると、2026年9月末の時点でマイナンバーカードの保有枚数は104,729,857枚、人口に対する保有率は84.5%です(2026年1月1日時点の住民基本台帳の人口が分母)。出典: 総務省「マイナンバーカード交付状況について」。
デジタル庁
デジタル庁は2021年9月に発足しました。2024年7月の時点で職員は1,105人で、そのうち民間出身の人材が528人(約48%)、行政出身の人材が445人、自治体出身が59人でした(デジタル庁「2024年デジタル庁年次報告」)。
自治体DXの主な取り組み
標準化・共通化
- 20の事務の標準準拠システムへの移行
- ガバメントクラウドへの移行
- データの形式をそろえる
行政手続のオンライン化
- マイナポータルからの電子申請
- 押印の見直し、電子契約
- 住民票の写しなどのコンビニ交付
マイナンバーカードの活用
- 健康保険証としての利用
- 運転免許証との一体化
- 公金受取口座の登録
総務省が挙げる重点の取り組み
総務省の2026年9月の資料では、自治体フロントヤード改革(窓口の見直し)、セキュリティ対策の徹底、システムの標準化、自治体のAIの利用促進、公金の収納でのeL-QRの活用、テレワーク、マイナンバーカードの利用推進が、重点の取り組みとして挙げられています。
GovTech人材の主なポジション
1. デジタル庁の職員
- 民間の専門人材としての中途採用と、国家公務員の採用試験からの採用があります
- 募集の職種と条件はデジタル庁の採用ページで公開されています
2. 市町村のCIO補佐官など(外部人材)
- 市町村の情報政策の責任者(CIO)を、専門家として支える役割です
- 総務省の資料では、市町村がCIO補佐官などを任用する経費は特別交付税の対象とされています。国が自治体の外部人材の任用を財政面で後押ししている、ということですね
3. 都道府県の「自治体DXアクセラレータ」
- 都道府県が任用して、管内の市町村のDXを支援する職員です
- 要件は次のいずれかです。① 民間企業や地方公共団体などで、デジタル分野の実務経験が5年以上ある(デジタル技術を使った業務改革など、システムを使う側の経験も含む)② IPAが行う高度試験(レベル4相当)のいずれかに合格している ③ ①②と同等以上の知見がある
- 2026年7月31日時点の速報値で、41団体が127名を任命しています。国は今後数年で、全国で500名程度の確保を目指しています
出典: 総務省 地域力創造グループ地域情報化企画室「都道府県と市町村におけるAX/DX推進体制の充実・強化とデジタル人材の確保・育成について」(2026年9月)。
4. 自治体の職員(DX推進の担当)
- 任期付や正規の職員として、庁内のDXの企画・推進を担います。募集は各自治体のサイトで出ます
5. GovTechスタートアップ・行政向けのサービス
- 例: xID(マイナンバーカードと連携するデジタルID)、トラストバンク(ふるさと納税サイト「ふるさとチョイス」の運営)、グラファー(行政手続のオンライン申請)
6. ITコンサル・SIerの公共部門
- コンサル: アクセンチュア・デロイト・PwCなど。SIer: NEC・富士通・日立・NTTデータなど
- 自治体システムの開発・移行・運用に関わります。上で見た移行の遅れの原因(SEの人手)に直接かかわる仕事です
7. 地域おこし協力隊
- 都市から過疎地域などに住民票を移し、自治体の委嘱を受けて地域の活動をしながら定住をめざす制度です。任期はおおむね1年から3年で、2024年度は7,910名が活動しました(総務省)
- 活動の内容は自治体の募集ごとに決まるので、デジタル関係の活動があるかは各自治体の募集要項で確かめてください
求められるスキル
IT技術
- クラウド(ガバメントクラウドの対象5サービスのどれか)
- API設計、データベース、セキュリティ
プロジェクト管理
- アジャイル・ウォーターフォール
- 事業者(ベンダー)の管理と調達の知識
行政の仕組みの理解
- 地方自治法・行政手続法・個人情報保護法
コミュニケーション
- 議会や首長への説明、住民への説明、事業者との交渉
関連資格
| 資格 | 内容 |
|---|---|
| 情報処理安全確保支援士 | セキュリティ(IPAの高度試験) |
| ITストラテジスト | IT戦略(IPAの高度試験) |
| プロジェクトマネージャ | PM(IPAの高度試験) |
| PMP | 国際的なPMの資格 |
| AWS認定・Azure認定 | クラウド |
| 個人情報保護士 | プライバシー |
| 行政書士PR | 法務 |
| 中小企業診断士 | 経営 |
IPAの高度試験は、上で見た自治体DXアクセラレータの要件②にも書かれています。
民間から転職するときの進め方
- Step 1 調べる: デジタル庁の採用ページ、自治体の募集、総務省の資料で、どんな役割が求められているかを確かめる
- Step 2 補う: クラウドの資格や行政の仕組みの学習で、足りない部分を埋める
- Step 3 応募する: デジタル庁の民間人材の募集、自治体のCIO補佐官や任期付職員の募集、都道府県のアクセラレータの募集、GovTech企業や公共部門の求人
- Step 4 経験を積む: 任期付の仕事で経験を積んでから、次の仕事を考える方法もあります
30〜40代のキャリアの考え方
- ITエンジニア → GovTech: クラウドや開発の経験を、行政向けサービスや自治体システムの移行に活かす
- コンサル → CIO補佐官: 計画づくりや調達の支援の経験を、自治体の中で活かす
- 公務員 → デジタル庁: 自治体や国の職員から、行政の現場を知る人材として移る
給与の決まり方は、デジタル庁・自治体・企業でまったく違います。応募する前に募集要項の給与と任期を確かめて、今の条件と並べて比べてみてください。
関連カテゴリ・ガイド
訂正(2026年10月22日): 以前の版では、デジタル庁・CIO補佐官・自治体DX担当・GovTech企業・コンサル・SIer・地域おこし協力隊の年収や月額報酬の幅、自治体向けの案件規模、CIO補佐官の採用条件(IT実務経験10年以上)、「全職員の約半数が民間出身」、「マイナンバーカード普及率80%以上」を、出典を示さずに載せていました。根拠を確かめられない数字は削り、確かめられたものはデジタル庁・総務省の公表資料に置き換えました。GovTech企業の例の誤り(飲食店の予約サービスを医療予約と紹介していたもの)と重複も直しました。
出典・確認日
- デジタル庁「地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化」「ガバメントクラウド」「2024年デジタル庁年次報告(組織データ)」
- 総務省「マイナンバーカード交付状況について」、「地域おこし協力隊」、「都道府県と市町村におけるAX/DX推進体制の充実・強化とデジタル人材の確保・育成について」(2026年9月)
- 確認日はいずれも2026年10月22日です

