Stripe Billing でできること
Stripe Billing は、サブスクリプション(定期課金)の請求書づくり、決済の回収、失敗したときの再試行、プラン変更や解約までをまとめて扱う Stripe の機能です。本記事では、Stripe の公式ドキュメントと日本向けの料金ページ(2026年10月21日に確認)をもとに、本番運用で押さえておきたい仕様を数字つきで整理します。
主要な機能と料金(日本向けの公式料金)
(1) Subscriptions:定期課金。(2) Invoicing:請求書の発行。(3) Tax:税額の自動計算。(4) Quotes:見積書。(5) Smart Retries:支払いに失敗したときの自動再試行。料金は、カード決済の手数料とは別にかかります。
| 項目 | 日本向けの公式料金 | 補足 |
|---|---|---|
| カード決済 | 決済成功ごとに3.6% | 通貨の換算が必要なときは+2% |
| Billing | Billing 取引額の0.7% | Stripe 以外で処理した取引も対象。1回限りの請求書は除く |
| Invoicing(Starter) | 支払い済みの請求書ごとに0.4% | — |
| Tax(ダッシュボード・ノーコードで使う場合) | 税金徴収の登録をした地域の取引ごとに0.5% | Calculation API を使う場合は取引ごと65円(API コール10件まで。超えた分は1件6円) |
※Stripe の日本向け料金ページ(2026年10月21日に確認)。料金は変わることがあるので、契約の前に公式ページで確かめてください。
計算例として、月額5,000円のプランを100人にカードで請求すると、1か月の取引額は500,000円です。カード決済の3.6%で18,000円、Billing の0.7%で3,500円、合わせて21,500円が Stripe に払う手数料になります(Tax を使う場合は別にかかります)。
Product / Price 設計
(1) Product:売る商品。(2) Price:月額・年額・従量などの価格。(3) tiered pricing:段階料金。(4) usage-based:使った量に応じた課金。(5) graduated/volume:段階料金の計算のしかた。カスタマーポータルには、同じ Product と同じ請求間隔(recurring.interval)の Price を複数定義できない、という技術上の制約があります。通常価格と学割価格のように同じ月額で2つの値段を出すなら、学割用に別の Product を作るよう公式ドキュメントは案内しています。
Subscription ライフサイクル
サブスクリプションの状態(status)は8種類あり、どの状態のときにサービスを使わせるかを決めるのが設計の中心です。
| status | 意味(公式ドキュメントの要約) |
|---|---|
| trialing | トライアル期間中。初回の支払いが済むと active に移る |
| active | 状態は良好。ただし、すべての未払いの請求書が払われたとは限らない |
| incomplete | 初回の支払いを23時間以内に完了する必要がある |
| incomplete_expired | 23時間以内に初回の支払いが成功しなかった。顧客には請求されない |
| past_due | 直近の請求書の決済が失敗した、または試行されていない |
| canceled | 解約済み。更新できない最後の状態 |
| unpaid | ダッシュボードの設定で選んだときだけなる。請求書は作られ続けるが、決済は試みない |
| paused | 決済手段がないままトライアルが終わり、終了時の動作を pause にしていた |
プラン変更(upgrade/downgrade)では、既定で比例配分(proration)が秒単位で計算されます。公式の例では、請求期間の途中で月額10ドルから20ドルのプランに上げると、追加で5ドルが請求されます。proration_behavior は create_prorations(既定)、always_invoice(すぐに請求書を作る)、none(比例配分しない)の3つから選びます。マイナスの比例配分は自動では返金されず、プラスの比例配分もすぐには請求されないので、顧客への説明と合わせて決めておきましょう。期末で解約する cancel_at_period_end は比例配分を作らず、払い済みの期間の終わりまで使わせてから解約できます。支払いの回収だけを止める pause_collection には、請求書を下書きのまま残す keep_as_draft、回収不能にする mark_uncollectible、無効にする void の3つの動作があります。
Stripe Tax
Stripe Tax の対応国の一覧には、2026年10月21日時点で104の国・地域が載っていて、そのうち42は対応するすべての商品税コード、62はデジタル商品だけを対象に税金を計算できます。日本は消費税が対象で、日本に拠点を置く事業者も使えます(対応開始は2023年10月1日)。インボイス制度(適格請求書等保存方式)に合わせるには、ダッシュボードの請求書設定にある「Tax information」で「JP TRN」を選んで登録番号(Tと13桁の数字)を入れ、すべての請求書に表示するならデフォルトに設定する、と Stripe のサポート記事は案内しています。手入力の税額は、請求書テンプレートの設定で請求書単位の端数処理に切り替えます。
Dunning 戦略
支払いに失敗したときの回収(Dunning)は、Smart Retries が中心です。Smart Retries は AI で再試行のタイミングを選ぶ仕組みで、期間は1週間・2週間・3週間・1か月・2か月から選べ、推奨の既定は「2週間以内に8回」です。自前のルールに切り替える場合は、前回からの日数を決めて最大3回まで再試行できます。カードの紛失(lost_card)や盗難(stolen_card)などのハードデクラインでは、新しい決済手段が登録されるまで再試行は実行されません。すべての再試行が終わったあとの扱いは、canceled にする、unpaid にする、past_due のまま残す、paused にする、の4つから選びます。失敗の通知は invoice.payment_failed で受け取り、attempt_count でそれまでの試行回数が分かります。
Customer Portal
カスタマーポータルは、顧客が自分で請求先情報(納税者番号を含む)・支払い方法・サブスクリプションを更新し、すぐに、または請求期間の終わりに解約し、請求書を支払い・表示・ダウンロードできる Stripe の画面です。解約しようとした顧客にクーポンを出したり、解約の理由を集めたりもできます。新しいポータルのセッションは5分で期限が切れ、使い始めたあとは最後の操作から1時間で切れます。複数の商品・従量課金・トライアルオファーを含むサブスクや、請求書を送る方式(send_invoice)のサブスクは、ポータルで解約はできても変更はできません。プラン変更の選択肢は最大10商品で、iframe の中には表示できない点も、設計の前に確かめておきましょう。日本語にも対応しています。
Webhook 連携
(1) customer.subscription.*:サブスクの作成・更新・削除。trial_will_end はトライアル終了の3日前に届きます。(2) invoice.paid / invoice.payment_failed:支払いの成功と失敗。invoice.paid を受けたら、サブスクの status が active であることを確かめてからアクセスを延ばすのが公式の手順です。(3) invoice.upcoming:更新の数日前に届き、次の請求書に項目を足せます。(4) 署名検証必須:Stripe-Signature ヘッダーにはタイムスタンプが入っていて、公式ライブラリは既定で5分の許容範囲を超えた古い通知をはじきます。許容値を0にすると時刻のチェックが無効になるので使いません。(5) 冪等性:同じイベントが複数回届くことがあり、届く順番も保証されないため、処理済みのイベント ID を記録して二重処理を防ぎます。本番環境で受け手が正しく応答しないと、Stripe は間隔を広げながら最長3日間送り直します。重い処理の前に 2xx を素早く返すことも、公式に推奨されています。
マルチテナント設計
(1) Customer ごとに tenant_id:自社のテナントと Stripe の Customer を1対1で結び、metadata に持たせる。(2) Connect:B2B2C 構造。(3) Application Fee:プラットフォーム料金。(4) Stripe Connect KYC:連結アカウントの本人確認。(5) 各国法令。カスタマーポータルを Connect と組み合わせる場合は、連結アカウントではなくプラットフォーム側のポータルを設定する、と公式ドキュメントは書いています。
Merchant of Record(販売者代行)という選択肢
通常の Stripe では販売者は自社で、税金は Stripe Tax で計算します。これとは別に、Stripe は Managed Payments という販売者代行(マーチャント・オブ・レコード)の仕組みも用意しています。Stripe が販売者になり、80か国以上の売上税・VAT・GST への対応、不正利用の防止、不審請求の申し立て、取引ごとの顧客対応を引き受けます。対象は SaaS・ソフトウェア・デジタルコンテンツなどのデジタル製品で、日本も事業の所在地の対象に入っています(使えるかどうかは Stripe の審査で決まります)。Checkout と Payment Links で使え、サブスクには Billing を組み合わせますが、Connect のプラットフォームでは使えません。Paddle も公式サイトで、自社が販売者として100を超える地域の売上税を引き受けると説明しています。
失敗しがちなパターン
(1) Webhook 署名検証なし。(2) Tax 設定漏れ。(3) 解約フロー複雑。(4) Smart Retries 無効化。(5) テスト環境と本番混在。対策は、(1)署名必須、(2)Tax 自動化、(3)1クリック解約、(4)Dunning有効、(5)環境分離、です。もう2つ、公式ドキュメントから分かる落とし穴があります。1つは、incomplete のまま23時間を過ぎた申し込みを使い回すことで、23時間を過ぎて戻ってきた顧客には新しいサブスクを作るよう案内されています。もう1つは、ACH デビットのように決済の確定が遅れる決済手段で、サブスクは incomplete を飛ばして active になり、あとで決済が失敗しても active のまま残ります。アクセスを止める条件は、この動きを前提に組み立てる必要があります。海外向けに法人を作って販売する場合は、Stripe Atlas深掘りも参考になります。
この記事のデータの出典
- Stripe 日本向け料金ページ(2026年10月21日に確認)
- Stripe ドキュメント「サブスクリプションの仕組み」「比例配分」「支払いの再試行を自動化する」「顧客にカスタマーポータルを提供する」「Stripe Tax が対応している国」「Webhook」「Managed Payments」ほか(2026年10月21日に確認)
- Stripe サポート「インボイス制度(適格請求書等保存方式)への対応について」
- Paddle 公式サイトの Billing のページ(2026年10月21日に確認)

